エピソード1EPISODE #01
■ 実施例① 高1男子 サッカー部 A君
―オレが思い通りに動かんかったら、いちいちキレるお前は何なん?
本気でオレに干渉せんとってほしいねん!―
学区内の2番手の公立高校に通うサッカー少年のA君。
中学時代は地域で最大手の進学塾で、ペナルティ課題から逃れるべく、大量の課題と小テストに丸暗記で臨み、学内でも上位をキープ。
「高校では今のやり方は通用しない」と、中3の11月頃から塾が「高1継続活動」への営業色を出し始めたあたりから、余計に嫌になり、高校入試終了後、両親の反対を押し切って、塾や予備校に通うことなく高校の勉強と向き合うことに。
授業進度が比較的ゆっくりな1学期のうちは上位20%には入っていたが、2学期に入り、みるみる成績が下がり、2学期末考査では数学と古文で進級が危ういほどの成績に。
子どもの様子をよく見ていた母親は、1学期末あたりから成績下降の予兆に気がつき、監視・忠告・叱責を始める。
気がつけば何を言っても、A君に思いが届かなくなってしまっていた。
そこから持ち直したお話です。
代表のカワサキが当時勤務していた塾の冬期講習チラシをきっかけに、「藁にもすがる思い」で電話をする母親。
それまでに3件の電話を他の塾にかけていたが、「当塾の××システムで成績が飛躍的に上がりますよ」とか、「ひとまず冬期講習でなんとかしましょう」とか、「早く大学受験を始めた人が勝つようにできているのです。だから今すぐやりましょう」とか、核心をつかない営業トークにあきれていた矢先のできごとだった。
何気ない会話の中で、不意にカワサキがした問いかけ。
【いちばん最近で、A君を認めてあげたのは、いつですか?】
――受話器ごしに数秒の沈黙。
その後のやり取りの中で、次のようなことを痛感。
- 成績や結果ばかり見ていたこと
- 「親の主張をいかに通すか?」に執着していたこと
- 自分の不安を解消するためにA君を叱っていたこと
そして、母親とカワサキの共同作戦が始まる。
カワサキ自身が出ていくよりも家族でしっかり話し会う機会がまず必要だと考え、以下のような提案がなされる。
- 母親とA君だけだと険悪なムードになりかねないので、父親にも入ってもらうこと
- 兄弟には聞かれたくないだろうという配慮のもと、下の妹2人が寝静まってからの時間にすること
を決め、以下のようなシナリオのアウトラインを用意した。
話し合いをするきっかけ作りについて
- 16歳の冬になったら、あなたにちゃんと話そうと決めていたことがあった。
- いつだったら落ち着いて話す時間をもらえるか?
おだやかな口調で話を切り出すこと。
→「また小言を言われる」と思わせないように。
シリアスそうな話だったら、さすがに耳を傾けるだろう。
A君に話してもらう前に、親から話をする
- 親からそれぞれ思春期の頃の失敗談を包み隠さず、美化せずに話す。
- 当時、自分の両親に対して抱いていた感情をできる限り生々しく伝える。
基本的には父が話したあとに、母が話すという流れを。
遠慮をなくして、できる限りぶっちゃけて話すこと。
A君に少しずつ話をしていってもらう
- 全然まとまっていなくても良いから、親に対して、学校に対して、世間に対して、感じていること、見えていることを少しずつで良いから教えてくれないかな?
どんな発言をしたとしても、まずはまっすぐ受け止める。
発言内容をオウム返しで繰り返しながら、ちゃんと聞いているという意思表示も欠かさず。
父親の話に自分を重ね合わせたり、母親が昔、自身の親に対して行っていたひどい言動を今まで隠していたことを打ち明けたり、ずっとA君に伝えられていなかったことをきいて、彼の心は動き出す。
そして、A君は涙ながらに気持ちを明かす。
素直になれなくてホンマにごめん。
実はオレ、めっちゃ悔しいねん。
悔しいけど何からやっていいか分からへん。
助けてほしいねん。
―――彼が現役で大阪大学へ現役合格を果たすまでの、この続きのお話は、またの機会に。